短命政権が続くのか?石破おろしに見る日本政治の構造的リスク


今月3月3日、総理大臣公邸で行われた自民党の当選1回の衆議院議員15人との会食。その直前、出席議員の事務所に1人10万円分の商品券が届けられた。この出来事をきっかけに、「石破おろし」の動きが一気に加速している。

思えば、日本の政権はここ数年、安倍政権の長期政権から菅政権、岸田政権と短命政権が続いている。岸田政権は約3年続いた。衆議院議員の任期を考えれば「頑張った」と言えなくもない。

短命政権が続くことは、果たして日本にとって何を意味するのか?過去を振り返りながら、その影響を考えてみたい。


「石破おろし」なぜ今この動きが起きているのか?

発端 商品券10万円問題

2025年3月3日、石破首相が当選1回の自民党衆議院議員15人と会食を行う前に、各議員の事務所へ1人10万円分の商品券を届けていたことが発覚した。

「政治資金規正法違反ではないか?」という指摘が浮上し、これを機に「石破おろし」の動きが一気に加速。

自民党の舞立昇治参議院議員は「歴代の総理大臣が慣例として普通にやっていたことだ」と発言したが、のちに撤回。つまり、この行為は「党の結束を固めるための習慣」だった可能性が高い。

だが、問題は10万円そのものではない。本質は、自民党内の権力闘争が露呈したことにある。

党内対立の構図:石破は「孤立無援」だった?

岸田派・二階派・麻生派・安倍派・茂木派などがひしめく自民党の中で、石破は強力な支援基盤を持たない。石破首相は、少数派で自民党内で強力な派閥に属していない。

そのため、政権基盤が弱く「今なら倒せる」と見られてしまった。

「たかが10万円」ではない?過去の総理と比べてみると…
歴代の総理大臣たちが扱ってきた「裏金問題」「派閥マネー」と比べれば、「一人10万円の商品券」という額は”たかだか”というレベルだ。

自民党の総理大臣(任期)裏金・派閥マネー問題金額
麻生 太郎(2008-2009)企業献金問題、派閥キックバック疑惑少なくとも数千万~億単位
安倍 晋三(2012-2020)桜を見る会、派閥裏金問題5億超
菅 義偉(2020-2021)総務省接待問題(裏金ではない)
岸田 文雄(2021-2024)派閥裏金疑惑1億超
石破 茂(2024-現在)商品券問題(15人×10万)150万円(政治資金規正法違反の疑い)

150万円という額は、安倍派や岸田派が扱った「億単位の裏金」に比べれば、幼稚園児のお小遣いレベル。本来ならば、小さすぎてニュースにもならない程度の話だ。

なのに、何故ここまで大騒ぎになっているのか?

石破おろしの本質は「内ゲバ」

問題の本質は「10万円」ではなく、自民党内の権力闘争(内ゲバ)が露呈していることにある。

昨年、2024年の衆議院選挙で自民党は大敗し、過半数を割り込んだ。
公明党と合わせても与党で過半数に届かず、政権運営が難航している。

さらに、今年2025年の夏には参議院選挙が控えている。

「選挙で勝てる政党」であり続けるためには、国民に人気のあるリーダー、もしくは強い支援基盤が必要になるが、石破茂はどちらも持ち合わせていない。

結果、党内の一部勢力が「今のうちに石破氏を引きずり下ろし、新しい体制を作るべきだ」と考え、動き始めた。

つまり、「石破おろし」とは、国民不在の内ゲバでしかない。

「たった10万円の商品券」が問題なのではなく、自民党内の権力闘争により、政権の求心力が低下していることこそが、最も注目すべき点だ。

 

 


石破政権は最初から短命になると予測できたか?

石破政権の流れ

  • 2024年9月:自民党総裁選

「石破ショック」と政権発足当初の逆風

2024年9月、自民党総裁選で岸田文雄が退任し、石破茂が新総裁に選出された。
しかしその直後、高市早苗氏への期待があった反動もあり、「石破ショック」と呼ばれる現象が発生。金融市場が不安定化し、国内外に不安が広がった。
国民に広く望まれて発足した政権とは言い難く、政権誕生の瞬間からすでに逆風が吹いていた。

  • 2024年10月:第50回衆議院議員選挙(解散総選挙)

2024年10月、解散総選挙となった第50回衆議院議員選挙で、自民党は歴史的な大敗を喫する。与党(自民+公明)で過半数を割り込み、石破政権は初動から深刻なダメージを受けた。
「石破では選挙に勝てない」——この評価が党内に広がり、政権の求心力は急激に低下していった。

  • 2025年3月石破おろしの始まり今ココ

商品券10万円問題が発覚し、退陣圧力が強まっている。実際は、ただの口実で内ゲバの加速。

国民の視線は“内政”に集中している

今、国民の関心は外交ではなく、明確に「内政」―――生活そのものに向いている。

  • 減税政策
  • 103万の壁
  • 少子化対策
  • 物価高騰とインフレ
  • 社会保障と医療制度の持続可能性

こうした課題に対して、政府の対応が鈍いと見なされれば、どの政権でもすぐに求心力を失う。
「商品券」や「派閥争い」に時間を使っている場合ではない。

 

 


長期政権に必要な条件とは?

なぜ岸田政権は支持率20%でも退任しなかったのか?

約3年間続いた岸田政権は、終盤に支持率が20%台にまで低下したにもかかわらず、長く政権を維持した。そこには、「党内基盤が盤石だった」という重要な要素がある。

  • 制度上、「支持率が低い=即退任」ではない

 総理大臣は国民ではなく、衆議院の多数派によって選ばれる。
 内閣不信任決議案が可決されない限り、辞任の義務はない。
 与党が衆議院で多数を占めていれば、不信任案は通らず、政権は維持できる。

  • 野党の弱さと“代わりの不在”

 当時の野党には決定的な対抗勢力が存在せず、不信任案も象徴的な圧力に過ぎなかった。
 さらに、自民党内でも「岸田おろし」が本格化しなかったのは、“代わりがいなかった”ため。
 派閥バランスを考慮すると、岸田を支え続けたほうが得策だとする空気が党内に広がっていた。

  • 実際に辞めた理由は「派閥裏金問題」

 最終的に岸田退陣を決定づけたのは、「派閥裏金問題」。
 これにより自民党全体の信頼が揺らぎ、党内でも「これ以上の延命は無理」と判断された。


安倍・小泉政権はなぜ長期政権になれたのか?

ここまで短命政権が続く理由と背景を見てきたが、では反対に「長期政権が成立する条件」とは何なのか?歴代の中でも特に印象的だったのが、小泉純一郎政権(2001-2006)と、安倍晋三政権(2012-2020)である。

総理大臣長期化の理由
小泉純一郎(2001-2006)郵政民営化という明確なビジョン
分かりやすいメッセージ
メディア戦略
敵味方を明確にする構造で求心力を維持(ポピュリズム的)
安倍晋三(2012-2020)強固な派閥(安倍派)
メディア対応力
敵をつくる政治で支持層を固定化
長期的な経済政策「アベノミクス」の打ち出し

この2人に共通していたのは、

  • 派閥の力という党”内”での盤石な地盤
  • 国民の支持率という“外の求心力”

つまり、内と外の両方からの支えがなければ、現代の日本で長期政権を築くのは難しいということだ。

 

 


今後も短命政権が続きそうか?

ここまでで、「石破政権の現状」「岸田政権はなぜ続いたのか?」「長期政権の条件とは何か?」が見てきた。
では今の日本は、長期政権に向かっているのか?それとも、これからも短命政権が続いていくのか?
誰もが感じているところだと思うが、「しばらくは短命政権が続く可能性が高い」。

1. 自民党の政権基盤そのものが崩れている

石破政権の不安定さに限らず、今の自民党には「選挙に勝てる顔」がいない
これは、過去の「長期政権を支えた派閥や人気」のどちらも失われていることを意味する。
頭をすげ替えたとしても、「誰がなっても変わらない」と国民に思われてしまえば、求心力は生まれない。

2. 政策が国民の実感と乖離している

岸田政権の終盤でも顕著だったように、

  • 減税問題
  • 社会保障の先行き不安
  • 103万の壁
  • 物価高に賃金が追いつかない現実(スタグフレーション)

──―など、国民の関心は「生活の改善」にある。

しかし、政権側からはそれに見合う成果や対応がアピールされておらず、「政治が自分たちに関係ないもの」になりつつある。

3. 「派閥政治」からの脱却が進まない

派閥とカネの問題が繰り返され、どの政権も「クリーンさ」をアピールしようとするが、結果的にはまた「内ゲバ」「裏金」が話題になる。
つまり、構造自体が変わっていない
変わらない構造の中では、「顔が変わっても中身は同じ」という不信感が根強く、国民の支持も一時的なものにとどまる。

しばらくは「短命ループ」が続く構造にある

総理が代わることで期待される。けれども何も変わらず、すぐに不満がたまり、また新しい顔になる。
こうした「短命政権のループ」が今の日本政治にはある。
政党の支持率が低下し、「安定した政権運営」はますます難しくなっている。

これを打破するには、別視点からのアプローチが必要になるだろう。

 

 


孤立主義×短命政権=最悪のタイミング?

2025年、アメリカでは再びトランプ政権が誕生し、「孤立主義(アメリカ・ファースト)」が加速しつつある。

  • 同盟国への負担増要求
  • ウクライナ支援の縮小
  • アジア太平洋の安全保障に対する姿勢の後退
  • NATO脱退の示唆

こうした動きの中、日本は「防衛」「経済」「外交」において、自立性がより問われる状況に直面している。

だが、現状の日本は、国内で政権が不安定な状態になっている。
ここに、非常に危うい構造がある。

国内で“政権ゲーム” 国外で“主導権空白”

今、日本は「政権を維持するための政治」に追われている。

  • 党内のパワーバランス
  • 支持率の上下
  • 派閥争い

こうした「内向きな政治」が続いている一方で、世界は今、外向きに大きく動いている。
その間に、外交の主導権を中国や他国に握られ、日本の国際的立ち位置が失われる可能性すらある。
そうしたときに、外交判断を誤ると、大きな衝突に発展するリスクが高まる。

「孤立主義(アメリカ・ファースト) × 日本の短命政権」 = 危機の連鎖 と言えるだろう。

 

 


まとめ

石破おろし、裏金問題、派閥争い。
これらの話題は注目を集めるが、本当に問われているのは「政権の土台」、そして「なぜ短命政権が続いてしまうのか?」という構造的な問題である。

「たかだか10万円の商品券」が、政権を揺るがす引き金になるほどに、信頼は崩れている。
そして国民も、それをうすうす感じている。

それでも政治は続いていく。
次の総理、次の政党、次の問題がまた繰り返されていく。
今、問われているのは「次に誰が総理になるか?」ではない。

このまま「忘れる」ことを選ぶのか。
それとも、「立て直す」ことを選ぶのか。

未来を決めるのは、政権の顔ではなく、わたしたちの意思なのかもしれない。

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