なぜイスラエルはイランを攻撃したのか?遠くの戦争が、日本に迫る

予測

2025年6月13日、イスラエルがイランの核・軍事施設に対して大規模な空爆を開始した。
日本のニュースサイトにもその情報は流れたが、多くの人はきっとこう思ったはずだ。

「また中東か」と。

アフガニスタン、湾岸戦争、イラク戦争、シリア内戦……“いつも争ってる”というイメージだけが、中東という場所にはこびりついている。

現代の日本人にとっては、もはやテレビの向こうの“日常的な非日常”だ。
SNSのタイムラインを2スクロールすれば、消えるニュース。だが、本当にそれでいいのだろうか?

この戦争の余波は、あなたのガソリン代や電気代、そして”戦争を知らない国”としての立ち位置にまで、確実に影を落とし始めている。


1.なぜ今、イスラエルはイランを攻撃したのか?:五つの伏線

※六辻彰二氏による分析(ヤフーニュース掲載:2025年6月13日)を参考にしています。

なぜ今イスラエルはイラン核・軍事施設を攻撃したか?――中東最大の対立を知る5項(六辻彰二) - エキスパート - Yahoo!ニュース
イスラエルが13日、イランの核・軍事施設に対する大規模な空爆に踏み切った。そこには大きく5つの伏線がある。イランとイスラエルは40年以上にわたってお互いに最大の敵とみなしてきた。ガザ侵攻後に対立はエス

1. 40年以上続く「宿敵」構造

イスラエルとイランの対立は、単なる最近の敵対関係ではない。
1979年のイラン・イスラーム革命以降、イランは「反イスラエル」「反アメリカ」の体制を掲げてきた。
一方のイスラエルも、イランを“存続を脅かす国家的脅威”と見なしており、両国は長年にわたり互いを最大の敵と認識し続けている。


2. ガザ戦争を契機とした対立の再加速

2023年末のガザ戦争以降、イランはイスラエルと交戦するハマスやヒズボラを資金・兵器で支援し続けている。
こうした「代理勢力」を通じた戦いが加熱し、レバノンとの国境地帯では度重なる軍事衝突が発生。
イスラエルにとっては、「背後にいるイラン本体」を叩かねば状況は変わらないという意識が強まっていた。


3. アメリカの“中立化”への不信感

イスラエルは伝統的にアメリカの強い後ろ盾を受けてきたが、ここに変化が生まれている。
2025年に再登板したトランプ政権は、イスラエルに「ハマスとの停戦」を促す一方で、イランとの核協議を再開。
ネタニヤフ政権はこれを「アメリカがイランと手打ちをする兆候」と受け取り、独自の行動に踏み切った。


4. 核協議の行き詰まりとIAEAの非難

イランとの核合意を再構築しようとしていたアメリカだが、交渉は次第に暗礁に乗り上げた。
その最中、IAEA(国際原子力機関)がついに「イランは義務を果たしていない」と異例の非難声明を出す。
これは、イスラエルにとって「今こそ動くべき」という国際的な“お墨付き”と捉えられた可能性がある。


5. 世界が“距離を置いている今”が最適タイミングだった

アメリカもロシアも、イスラエルとイランの直接衝突には深入りを避けようとしている。
中東における新たな全面戦争を恐れ、関係国は明確な介入を控えている状況。
こうした「無干渉の構造」が、イスラエルにとって軍事行動を選ぶ最大の後押しとなった。


2.イランの“直接攻撃”がもたらした変化

昨年2024年4月13日 夜、イランは史上初めて、自国領からイスラエル本土に向けて直接攻撃を行った。
この出来事は、ただの「報復」でも「偶発」でもなかった。
それは、“撃たないこと”が均衡を保っていた中東の構造を、一歩ズラした一撃だった。


きっかけは「領事館への空爆」

発端は、イスラエルによるシリア・ダマスカスのイラン大使館領事部の空爆だった(2024年4月1日)。この攻撃で、イラン革命防衛隊の高官らが死亡。
外交施設への攻撃=主権侵害という極めてセンシティブな一線を越えたことに、イランは「黙っていられなかった」。


本当は撃ちたかったわけではない

イランが選んだのは、“大規模かつ慎重”な象徴的攻撃だった。

ドローン約200機・ミサイル数十発を投入。しかし、ほとんどが迎撃され、被害はごく限定的だった。
むしろ、「報復したこと」そのものが目的だった

本気で戦争したいのではない。
だが、報復しないと「国家としての沽券」が保てない。そんな政治的演出としての軍事行動だった。


核の“使えなさ”

ここで明らかになったのは、次の事実だった:

核兵器は“持っていても使えない
しかし“持っていないと交渉でナメられる
→ だからこそ、通常兵器による演出的報復が不可欠になる

イランにとって、「報復の演技」が外交カードになっているという皮肉な構造だ。


今回のイスラエルの空爆へ

この2024年4月の一撃によって、“直接撃ち合うことも選択肢”という前例ができてしまった。
そして2025年、今度はイスラエルがそのカードを引き返す形で、核施設への攻撃に踏み切った。

つまり今、中東の戦争は「本当に戦わないために撃ち合う」という、軍事と外交と演出が混ざり合ったグレーゾーンに突入している。


3.なぜ“遠い中東”の戦争が、いま日本に降りかかるのか?

「また中東か」と見過ごされた空爆のニュース。
しかし、この撃ち合いの火の粉は、すでに日本という“戦地ではない国”に降りかかり始めている。
ここでは、その影響を三層で読み解く。


①:【即効性】エネルギー供給ショック

▶︎ 原油90%中東依存という構造リスク

すでに世界で原油価格が一時高騰というニュースとあった。

  • 日本の原油輸入の約90%が中東産(サウジ・UAE・カタールなど)
  • イスラエル×イランの衝突によって、ホルムズ海峡の封鎖リスクが高まる
     → ここは中東の石油の約3割が通る“世界の血管”のような海峡

▶︎ 生活に直撃する“見えない戦争税”

原油価格が上昇すれば…
 - ガソリン代が上がる
 - 電気代が上がる
 - 輸送費が上がり、食料・日用品まで値上がり

戦争をしていない国が、戦争の支払いをさせられることになる。


②:【中期リスク】地政学バランスの変化

▶︎ アメリカの戦力が中東に吸われる

  • アメリカがイスラエル支援に本格介入すれば、軍事・外交の主力が中東に移動
    (今は「アメリカはイスラエルによるイラン攻撃には加わらない」としている)
  • 結果として、インド太平洋(つまり日本の近隣)が手薄になる

▶︎ 中国・北朝鮮が“空白”を突いてくる

  • 台湾有事の抑止力が下がる
  • 北朝鮮がミサイル発射や核実験を再開する可能性
  • ロシアも極東側での挑発を強める懸念

→ アジアが“次の焦点”に浮上する中、日本は戦場にはならなくても「緊張状態の最前列」に立たされる。


③:生活と精神への遅効的影響

▶︎ インフレと社会不安の連鎖

  • 物価上昇が「中東のせい」にされる
  • 防衛費が増えれば、福祉や教育が圧迫される
  • 財政議論の中で「有事国債」など戦時モードの政策議論が進み始める

▶︎ 戦争を“感じる日常”がやってくる

  • 防衛費、ミサイル配備、原発再稼働、徴兵制の議論
  • それらの根底には、「中東のどこかの戦争」がある

→ 遠くの戦争が、日本人の“戦争感覚”を静かに目覚めさせる


まとめ:無関係なふりは、もうできない

日本は戦争をしていない。
けれど、戦争のコスト、戦争の空白、戦争の不安だけはしっかりと受け取る場所にいる。
誰の戦争でもない戦争に、静かに付き合わされている。

そして、それはまだ始まったばかりかもしれない。


4.これは茶番か?“遠い戦争”に付き合わされる国のかたち

イスラエルとイラン。
核と報復。戦争と外交のあいだで、ドローンとミサイルが飛び交う。
だが、その実態は、どこか「本気でやっていない」ようにも見える。


戦争は、“演出”になった

イランは撃ったが、ほとんどが迎撃された。イスラエルは攻撃したが、全面戦争には至っていない。
ロシアもアメリカも、昔つけた火を遠巻きに眺めるだけ。
誰も勝たず、誰も滅びず、ただ「撃つべきタイミングで撃つこと」が繰り返されている。

この戦争は、「見せる戦争」だ。
それは演技であり、既定路線であり、“維持するために必要”なようにも見える。


犠牲になるのはいつも「巻き込まれる側」

この“戦争劇”のなかで死ぬのは、演出家ではなく、民間人であり、周辺国の一般市民であり、そして“戦争をしていない国”の私たちなのかもしれない。

  • ガソリンが上がる
  • 電気代が上がる
  • 政治が変わる
  • 空気が変わる

それらは誰のせいでもなく、ただ「そういう構造に組み込まれている国だから」という理由で降りかかってくる。


いま、問うべきこと

▪️ なぜ、撃てない兵器(核)を持ちたがるのか?
▪️ なぜ、勝てない戦争を演出し続けるのか?
▪️ なぜ、関係ないはずの戦争に、私たちは未来を預けるのか?


結論:

「戦場ではない」ということは、「戦争の当事者ではない」という意味ではない。

そしてこの構造は、誰かが“また撃った”ときに、また一段と強く可視化される。

イスラエルとイランの空爆の下で、ほんのわずかに変わったガソリン価格に、あなたは気づくかもしれない。
それは遠くで響いた雷の音ではなく、もう降り始めている雨音に混じる軍靴かもしれないのだから。

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